鈴木さん :
(花夜野)
スポットが当たったら【鈴木さんナレーション】
僕達は4人で森で暮らしている。
僕と、暁(あかつき)と、雷明(らいめい)と天晴(てんせい)。
正確には4人じゃなくて4匹。

本当はキツネだけれど、僕と暁は人間の姿で暮らしていて、雷明と天晴はキツネのまま生活している。
魚を取ったり、木の実を拾ったり、森の中の生活は、穏やかで暖かい。
昨日も、僕達は一日中、川で魚を取って遊んだ。
森の木々の間から差し込む初夏の日差しと冷たい川の水が気持ちよくて、僕達は夢中になった。
特に大きな獲物をしとめた暁と雷明は大興奮で。
今日はみんなで朝から散歩に行く約束だったのに、何度起こしても暁と雷明はぐっすり眠ったまま。

そんな訳で、僕と天晴、たまに二匹だけで出かけてみようということになったんだけど…。
…どうやら僕達は、とっても遠いところまで来てしまったみたいだ。
鈴木さん : 随分遠くまで来ちゃったねえ。
千葉さん :
(天晴)
いつの間にか、こんな都会まで来ちゃってたんだね。
鈴木さん : (鈴木さんきょろきょろして)ねえ天晴…ここ、どこなのかな?
千葉さん : (少し驚いて)…分からないでここまで歩いてきてたの、花夜野?。
鈴木さん : (えへへ)ぼんやり歩いてたら、全然森とは違うところに来ちゃったみたい。
…それにしても大きな町だねえ。
千葉さん : …相変わらずのんびり屋なんだから。ここは【いけぶくろ】っていう所だよ。
鈴木さん : あーちゃんと雷明、置いてきちゃって、怒ってるかな。
千葉さん : 昨日魚取りに夢中になりすぎて、起きれなかったんだから自業自得でしょ。
鈴木さん : そうだね。でもきっと、こんな都会に来たら二人ともびっくりするんだろうなー。
千葉さん : コンクリートジャングルってやつだね。
鈴木さん : …こんくりいとじゃんぐる?(首を傾げつつ)
千葉さん : 大きなビルばっかりの町をそういうんだって。

…それにしてもニンゲンが多すぎる!
さっきから尻尾を踏まれそうになってばっかりだよ。
まあそう簡単に踏まれたりしないけどね。
鈴木さん : さっき女の子達にかわいがられてたね、天晴。
かわいいかわいいって、たくさん撫でられてたし。
千葉さん : この辺はなかなか見る目のあるニンゲンが多いみたいだね。
…犬と間違えられるのは気に入らないけどさ。
鈴木さん : ふふ、それより天晴、折角こんなとこまで来たんだし、何かあーちゃんと雷明にお土産を買って帰ろうか。
何がいいかな?どんぐり?
千葉さん : どんぐりはないと思うよ。
(小声)…サンシャインの中のトトロの店にはあるかもしれないけどね。
鈴木さん : え、じゃあ、あーちゃんには、プリン?それともアイスクリーム?
あーちゃん、甘いもの好きだよね。僕が食べてるとすぐ、僕の口ぺろぺろするもん。
そんなにしなくてもちゃんと分けてあげるのにね。
千葉さん : …それは甘いものが好きなんじゃなくて、違うものが食べたいんだと思うよ。
(小声)暁、分かってもらえてないよ…
鈴木さん : それとも魚かなあ?森の川にはいない魚とか、売ってるかな。
…でもあーちゃん、魚好きなのにおはしが苦手で、食べるの上手じゃないんだよね。
いつも僕に食べさせてっていうもの。
なかなかうまく食べれないからってすねちゃって、おはし放り出したりして。
僕があーんってしてあげないと食べないんだよ?
千葉さん : …暁の演技に、見事にだまされてるね。
(小声)でも暁、丸っきり子供扱いだよ…
鈴木さん : (気付かずに)雷明には何がいいかな?天晴天晴、雷明には何がいい?
千葉さん : 「さっくり君」でも買って帰れば喜ぶんじゃない?
鈴木さん : 何?それ。
千葉さん : 雷明が欲しがってたテレビショッピングのやつ。東急ハンズで実演販売してたんだよ。
今なら万能ピーラーもついてくるんだってさ
鈴木さん : じゃあ雷明にはそれにしよう!喜んでくれるかな。
千葉さん : (小声)といっても狐だから包丁なんて使えないけどね。
鈴木さん : お土産も決まったし、そろそろ帰ろうか。
あーちゃん達、待ちくたびれてるかも!
千葉さん : ふふ…花夜野、暁と一緒じゃなくてさびしい?
鈴木さん : えっ?(ポンと耳が出る)
千葉さん : 暁も一緒に来れたらよかったのにね。…耳、出てるよ(笑)
鈴木さん : (鈴木さん、頭を手で隠しつつ)もう、誰かに見られたらどうするの?天晴のばか。
鈴木さん : (鈴木さん、おしりをおさえて)わあっ、おしりがぶるぶるしてる!
なんか大きな音がしてるよ!天晴!何これ!?何、天晴!?
千葉さん : 落ちつきなよ、花夜野。出てくる時、ニンゲンが貸してくれただろう?「携帯電話」っていうんだよ。
それで遠くにいても話ができるんだって。
鈴木さん : ああ…そういえば。(慌てて)でもどうするの?
天晴天晴、これ音がずっと鳴ってるよ!どうしたらいいの?
千葉さん : ほら、落ちついて。
携帯電話を出して、そう、そのボタンを押して…そこに耳をあてて…声が聞こえるだろう?
鈴木さん : (恐る恐る携帯に耳をあてるふりをして)…あーちゃん!天晴!あーちゃんの声が聞こえるよ!
あーちゃん、この中にいるの?
千葉さん : その中にはいないよ…ニンゲンの魔法みたいなものかな。
ほら、暁と話ができるよ。
鈴木さん : (電話の向こうの暁と話をしている様子で) …うん、あーちゃん、うん、ごめんね。
よく寝てたから、起こしたらかわいそうだと思って…。
うん、うん、僕も暁と一緒に出かけたかったよ…うん、今後絶対ね。天晴、暁が話したいって。
(携帯電話を千葉さんの方に差し出す動作をする)
千葉さん : (携帯電話を受け取る動作をして)うん、うん、え?花夜野と二人きりでデートしてずるいって?
それは自業自得だろ?…ふふ、もうすぐ帰るから、安心しなよ。
(携帯電話を耳から離して) …うるさいなあ、雷明!そんなにぎゃあぎゃあ言わなくても聞こえてるってば!
…え?今日一緒に湖に行く約束してたって? ふん、何回起こしても起きなかったのは雷明じゃないか。僕、待たされるの嫌いだから。
…え?(ちょっと優しく)…怒ってなんかないけどさ…
うん、うん、雷明の欲しがってたもの、買って帰るからね。
…何かって?ふふ、帰ってからのお楽しみ。うん、それじゃあ。(携帯電話を切る動作をする)
鈴木さん : あーちゃん、置いてきぼりで拗ねちゃってた。雷明も怒ってた?
千葉さん : ううん、お土産楽しみにしてるって言ってたよ。
さあて、みんなも待ってることだし、そろそろ帰ろうか。
鈴木さん : はーい。あーちゃん、雷明、今から帰るよー。
鈴木さん : …ああ、でもおなかすいちゃったね、天晴。 きつねうどんでも食べる?
千葉さん : …その店に僕が入ってもいいんならね。
 
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