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Recording Report

瞳をすまして 収録レポート


※今回の作品には様々な表現が登場するため、本レポートでは内容に詳しく触れている部分があります。ご注意下さい。
※編集により、表現方法が変更となる場合があります。
※今回の作品には様々な手話、メール等、様々なコミュニケーションの方法が登場します。
キャストの皆さんが役を演じられるにあたり、脚本にそれらがどのように表記されていたのか、レポートの最後に脚本の一部抜粋部分を掲載しています。

某日「瞳をすまして」の収録が行われました。本作品はDisc2枚組ということで、2日間に分かれての収録となりました。
収録レポートでは、1日目、2日目それぞれの様子をお届けいたします。

■ 収録1日目
夕方からの収録となった1日目。
この日集まられたのはメインキャストの福山さん、中村さん、花輪さん。お三方は、楽しそうにお話をされながら収録開始を待たれます。
収録開始前、キャストの皆さんに原作者の杏野先生を紹介するプロデューサー。
緊張気味の先生に、

「今日はね、実力派のキャストさんが揃ってるから、大丈夫ですよ」
三人 「うわー…(笑)」
とプロデューサーの言葉に苦笑いのお三方。

テストの前に、作品のテーマやキャラクターについての話し合いがじっくりが行なわれました。
それぞれ難しいキャラクターをどのように表現するのか、皆さん本番に向けて真剣なご様子。
ご挨拶を終えた後、テスト収録が開始され、数シーンを演じていきながら、キャラクターの設定が行なわれます。

ドラマCD版「瞳をすまして」では、耳が聞こえないという障害を持った登和を主人公に、登和とのコミュニケーション方法として
作中に登場する手話、筆談、メール等、登和の『音のない世界』をどうやって『音』で表現するのかが最大の課題でした。
聴覚障害という難しいテーマに取り組むにあたり、聴いて下さる方に誤解のないように、どのように作品作りをしていくか。
またリアリティーと聴きやすさのさじ加減等、一つ一つ意見を出し合いながら制作にあたった本作。
相手に伝えようと努力すれば、必ず想いは伝わる。「想いを伝える」ということの大事さを作品を通してリスナーに伝えたいという思いを胸に、
キャスト、スタッフ一同が一丸となって、全員でディスカッションしながらの収録となりました。

収録の前にまずはキャラクターを設定するためのテストを行います。
音だけでキャラクターの表情や動き、雰囲気までを聴く側に伝えられるように、また原作の意図するものをどれだけ伝えられるか、
キャストの皆さんには声のトーンを変えたり、感情の起伏の幅を変化させるなど、数パターンを演じて頂きながら、基本ラインを調整していきます。

牧野登和を演じられる福山さん。聴覚障害を抱えながらもがんばる健気な登和を繊細に演じて下さいました。
福山さんの演じられるかわいい登和に、杏野先生からも一発OKを頂き、そのまま進んで頂くことになりました。
本多滋人役の中村さん。さわやかで親しみやすい雰囲気がイメージぴったりということで、こちらもそのまま進んで頂くことになりました。
武士役の花輪さん。手話サークルに入っている登和の友人で、登和のよき理解者でもあるのですが、優しい雰囲気がとっても素敵です! 
お三方ともキャラクターそのもののイメージということで、テストは無事終了。収録は本番へと進んでいきます。


難しい表現に挑戦ということで、気合十分のキャストの皆さん。
収録中、終始キャストの皆さんから手話や表現方法についての質問が飛びかいました。
今回の作品では、手話・メール・ノート(筆談/ノートに書いて読む)・携帯電話(携帯のメール画面に文字を打ち込んで画面を見せる)など、
様々なコミュニケーションの方法が登場します。
それぞれの違いをどのように表現するのか、またキャラクターによっては、同じ表現方法でも若干違いを持たせなければならないということで、
皆さん真剣なご様子。

まず、作中最も多く登場する手話の表現。基本的には手話は「話しながら手話をする」ということで演技をして頂くことになりました。
そのため、手話のシーンではゆっくりと手の動きにあわせて台詞を喋ることになります。
そして、武士や手話サークルのメンバー、登和の家族達は手話に長けているので比較的スムーズに、
反対に滋人は登和と出会って初めて手話を学ぶため、たどたどしく、次第に上手に…という風に、キャラクターや時間経過に沿って、
手話の表現にも変化をつけて頂いています。
また、福山さんの演じられる登和自身は手話をしながら声を出しては喋りません。
そのため、登和は息遣いと心の声で手話を表現することになります。それぞれのキャラクターの手話の表現の違いにご注目下さい。
真剣な面持ちの福山さん、演じられながら「今の手話の表現、ニュアンスは大丈夫ですか?」と何度も確認をされていました。

また、登和は手話以外にも、要所要所で『声』を出すシーンがあります。

福山さん 「普通に手話でもなく声を出すところがいくつかあるんですが、そこはどうしましょうか? どんな感じでやればいいですか?」
「(先生に)登和が声を出して喋るシーンは、はっきり聞き取れるんでしょうか? それとも…?」
先生 「滋人と登和のやりとりだと、滋人的にはとにかく登和のことを理解したいと思っているので、つたなくても(滋人には)聞こえる
という感じでお願いできれば…でも基本的には家族や登和の言葉を理解したいと思っている人以外はあまり分からないと思います」
福山さん 「はい、分かりました!」

耳が聞こえないということで、登和の声の演技の部分はどのように表現するのか、試行錯誤を繰り返しながら収録は進んでいきます。
あくまで誤解を招くことのないように、でも聴覚障害を持つキャラクターということを忘れずに、かつリスナーが台詞を聞き取れなくてはいけない。
プロデューサーの指示のもと、何パターンも演じて下さる福山さん。かすれ気味に演じられた『声』の表現では、
登和の心情が痛いほど伝わってきます。必聴です!

そして、ノートで筆談を行う表現とメールの表現は、手話に比べるとスムーズに、少し淡々と演じて頂いています。
通常の演技のように台詞にそのまま感情を込めて演じるのではなく、一度台詞を飲み込んだ上で、あえて抑えて表現しなければならないため、
感情を出したいシーンでもぐっとこらえて演じなければなりません。
とりわけ他の人に比べてノートやメールでのコミュニケーションの多い滋人役の中村さんは大変そうでした。


真剣な雰囲気の中、収録は順調に進んでいきます。
学生モデルで、男女問わず人気者の滋人。そんな滋人と仲良くなればなるほど、障害ゆえに彼に同情されているのではないかと後ろ向きになる登和。
滋人を好きだけど、自分は滋人の特別な存在にはなれない。滋人への恋心を自覚してからの登和の切ないモノローグを、
福山さんが震える声で繊細に表現して下さっています。福山さんの紡がれる滋人への悲痛な想いがとても切ないです!

そして、一生懸命な登和に惹かれ、手話を覚え、自らも変わろうとする滋人。
登和に対して向けられる全ての表現に、滋人の登和への愛情や優しさがにじむ演技はさすがです!
手話やノート等、抑えた演技の中にも確かな登和への愛情が伝わってきます。中村さんの優しい愛情に溢れた演技が本当に素敵です。

切ないすれ違いの末に、お互いの想いを告白しあう二人。手話と携帯とで繰り広げられる
二人の気持ちのやりとりを耳をすまして聴いて頂ければと思います。
真摯に語られる滋人の登和への想いと、勇気を奮い立たせて『声』で表現された登和の滋人への想い。
福山さんと中村さんが、本当に丁寧にお互いの想いを表現して下さっています。

そして、恋人同士になった登和と滋人。二人の幸せはずっと続くかと思われましたが、多忙な滋人とのすれ違いと滋人の登和の周囲への嫉妬に、
二人の関係に暗雲が立ち込めます。
モデルとしてどんどん忙しくなる滋人に寂しさを堪えきれない登和。滋人に会えない寂しさを福山さんが切なさいっぱいに表現して下さっています。
反対に、登和を取り巻く周囲に嫉妬する滋人。純粋な登人が心配でたまらなく、周囲の思惑がわからない登和に歯がゆさを堪え切れません。
嫉妬心に苛々を隠し切れない滋人。そんな滋人にどんどん自信をなくしていく登和。お互いを思いあうがゆえのすれ違いに、思わず胸が痛くなります。

セイに嫉妬し、滋人が感情を登和にぶつけるシーン。ずっと抑えた演技が続いた中での、滋人の想いがぶわっとあふれ出したような場面では、
中村さんが感情を爆発させて滋人の想いを表現して下さっています! 熱い滋人の心の叫びに思わず胸が痛くなるほどキュンとさせられます。

そして、二人が肌を合わせるシーンは、場面ごとにしっかりと演じ分けをして下さっています。
想いが通じての初めてのシーン、滋人が嫉妬にかられて登和を傷つけるシーン。そして最後の、誤解が解けて愛情を確認しあい肌を重ねるシーンは、
ラブラブで愛に溢れた幸せなシーンになっています。また、手話や携帯だけでなく、指で肌をなぞって気持ちを伝えたりと、
この場面ならではの優しい表現も登場します。どのシーンもそれぞれ原作の雰囲気を大事に丁寧に演じて下さいました。


そして本編終了後、購入特典のフリートークでは、福山さん・中村さんのお二人で、楽しいお話を繰り広げて下さっています。
収録後、リラックスムードのお二人がしみじみと今回の作品についての取り組み方や、キャラクターについてなどを語って下さいました。
仲の良いお二人の、わきあいあいとしたここでしか聴くことが出来ないお話が詰まっています!

新たな表現へのチャレンジに取り組んで下さった福山さん、中村さん、花輪さんをはじめ、スタッフ全員が真剣に作品に向かい合った収録。
試行錯誤を繰り返しつつ、全力投球した1日目の収録は、やりきったという満足感の中、無事終了となりました。

■収録2日目
2日目は、福山さん・緑川さんをはじめ、大勢のキャストの方々が揃っての収録となりました。
1日目に収録した音源を聞きながら、手話やメールの表現方法についての確認が行われ、その後テスト収録へ。

登和の兄・牧野輝役の緑川さん。障害を持つ登和に対して過保護な輝を、低いトーンで演じて下さいました。
落ち着いた、クールな雰囲気がとてもかっこいいです! 
登和が心配なあまり、彼の行動や交友関係にまで口を出す輝。厳しい雰囲気の輝を、緑川さんが的確に表現して下さいました。
更に、登和に対しては過保護なあまり厳しくしつつも、序盤は抑え目に、でも滋人にはもっと厳しくと、メリハリをつけてほしいという追加の希望に、
「はーい♥」と輝の声とは全く違うかわいい声で答えて下さる緑川さんでした。

そして、1日目に引き続き、福山さんには、一生懸命で健気な登和を熱演して頂きました。
本編ではモノローグ(登和の心の声)も多いのですが、気持ちが乗りすぎて走らないように、でも感情を込めてと繊細に一つ一つの台詞を紡いで下さいました。
モデルの仕事が忙しい滋人と会えない寂しさや、輝に責められ、わかってもらえない悲しさ、自分も変わろうと一歩踏み出す様子など、
登和の感情の動きを丁寧に演じて下さる福山さん。物語が進んでいくにつれ、心情の変化が声のトーンなどから感じることができます。
福山さんの台詞にのせて、登和の心情が心に響きます。

また、膨大な台詞量で終始喋りっぱなしにも関わらず、全く疲れを見せない福山さん。 途切れることのない集中力はさすがです!
トークバック越しのプロデューサーからの指示にも「はい! はい!」と誰よりも大きな声で、最後まで元気よく答えていらっしゃいました。
そのプロ意識には頭が下がるばかりでした。


キャストの皆さんの巧みな演技に、順調に収録は進んでいきます。
さて、登和、輝、母親、父親の家族でのコミュニケーションの方法はもちろん手話です。
家族間の手話のコミュニケーションは当たり前であることから、輝役の緑川さんをはじめ、母親役の桐山さん、父親役の里さんは、
友人や滋人達の「手話をしている」という感じよりも更に自然に、スピードも速く慣れている感じで手話の雰囲気を出して下さっています。
家族団欒の場面では、がんばり屋の登和を優しく見守る両親と、そんな登和が心配で仕方ない輝の、登和に対する温かい愛情が溢れています。
家族全員で食卓を囲むシーンでは、緑川さんのお茶目でコミカルなアドリブも必聴です!

自身の辛い過去の出来事がトラウマになり、登和と滋人との関係を受け入れられない輝。
心を閉ざした輝の冷たい言葉が登和に突き刺さります。一見厳しい言葉の裏側に隠された輝の傷。クールに振舞いながらも、どこか痛々しい輝の悲哀が、
緑川さんの低いトーンの声や、息や間、言い回しなどから切ないほどに感じられます。
手話で淡々と喋っている中にも、緑川さんの素晴らしい演技が随所に散りばめられていますので、じっくりと堪能して頂きたいと思います。
キャストの皆さんの熱演に2日間に渡る収録は無事終了となりました。


本作品は、役者やスタッフにとって、とても難しく、そして作りがいのある作品でもありました。
耳が聞こえない、音のない世界を『音』で表現する。正直ドラマCDとしては無謀な挑戦でしたが、原作の世界観を壊すことのないよう、
全員で真摯に向き合った作品になりました。
「誰かに想いを伝えるために努力すること」「想いを伝えることの大切さ」。今回のドラマCDを通して、聞いて下さる皆さんに少しでも伝われば嬉しいです。
6月28日発売、「瞳をすまして」。皆さんぜひお楽しみ下さい!!

「瞳をすまして」脚本一部抜粋(3シーン分) 作中よく登場する手話「大丈夫」の表現

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