12月初旬 『その唇に夜の露』 の収録に行ってまいりました。
収録当日。スタジオに入って皆さんが揃うのを待っていると、次々にキャストの方々が集まって来られます。
スタジオに集まられたキャストの皆さんは、わきあいあいと収録開始を待ちます。
途中、プロデューサーが加わり、作品の世界観やキャラクターについての話し合いが行なわれました。
プロデューサーとのおつきあいも長い森川さんと遊佐さん。
P「二人ならもう全然心配ないからね」
という言葉に、「またまたー」となごやかな雰囲気がスタジオを包みます。
収録開始前、キャストの皆さんに原作者の深井先生を紹介するプロデューサー。
ご挨拶を終えた後、テスト収録が開始され、数シーンを演じていきながらキャラクターの設定が行なわれます。
ドラマCD版『その唇に夜の露』では、心に傷を抱える琢紀と恭一の少年時代と現在を行き来しながら、原作で描かれている
二人の繊細な心理描写とすれ違いの切なさをどれだけ忠実に表現できるのかがポイントとなりました。
コミックスとは違い、音だけでキャラクターの表情や動き、言葉の裏にある心情、空気感までを聴く側に伝えられるように、
キャストの皆さんには声のトーンを変えたり、感情の起伏の幅を変化させるなど、数パターンを演じていただきながら、
基本ラインを調整していきます。
和田琢紀を演じられる遊佐さんには、中学生時代の琢紀とバスの運転手となった現在の琢紀を演じて頂きました。
抑えた中にどことなく空虚なものを抱えた琢紀そのものの演技がイメージぴったり!という事で、
テストのまま進んでいただく事になりました。そして中学生時代については、大人っぽいキャラクターのため、
現在との違いをそこまで出さなくてもよいということで、若干声を高めに意識する程度で
基本ラインはあまり変わらずに演じていただくことになりました。
「中学生、大丈夫かな…」と仰られていた遊佐さん、OKのサインに笑顔を浮かべられていました。
若江恭一を演じられる梶さんと森川さん。
中学生時代の恭一を梶さんが、大人になってからの恭一を森川さんが演じて下さるのですが、大先輩の森川さんを前に緊張気味の梶さん。
しかし作中では梶さんの演じられる中学生時代の恭一が先に登場するため、テストは梶さんが先に行うことに。
緊張しながらも、子供っぽさのあるかわいらしい恭一を演じて下さいました。高いトーンの声音に、「かわいいですね」と先生も納得のご様子。
さらに気の強い部分となよなよとしたところの、両面性のある部分にメリハリをつけて演じていただくことになりました。
そして、緊張気味の梶さんに冗談を言いつつ、リラックスさせて下さる森川さん。
恭一に関しては、中学生時代と大人になってからの対比がポイントでもあるのですが、何を考えているのかわからない底知れなさのある現在の恭一を、
ピンとしたクールな声音で演じて下さいました。基本は冷たい声音で、でも感情が爆発するところでは心の奥底で沸き立っていた想いが湧き出るように。
その複雑な両面性の表現はさすがです。
先生からも「素晴らしいです」とOKをいただき、そのまま進んでいただくことになりました。
物語は、琢紀と恭一の中学時代の回想シーンからスタートします。
二人の大切なあたたかい思い出のシーン。子供っぽくかわいらしい梶さんの恭一と、落ち着いた琢紀。
どこか懐かしいお二人のやりとりに、ぐっと物語の世界に引き込まれていきます。
十五年後、子供の頃から夢だった路線バスの運転手の仕事につき、充実した日々を過ごしているけれども、
どこか淡々と日々を過ごす琢紀。そこに、十五年前のある出来事から姿を消していた恭一が突然琢紀の前に現れます。
琢紀を演じられる遊佐さんは、抑えた台詞回しや間合いの取り方が琢紀の雰囲気にぴったりでした。
落ち着いた中にどこか見え隠れする影。遊佐さんの紡がれる繊細なモノローグと台詞から、琢紀の想いが痛いほど伝わってきます。
恭一の行動に振り回され、心をかき乱されていく様子が本当に切なく痛々しいです。
十五年前の幼さと不器用さが招いた切ない出来事。すれ違い故に傷つけあう関係。身体は繋がっていても心は離れているアンバランスさ。
相手の心がわからないまま身体を奪われながらも、恭一自身への愛を抑えられず、どんどん暗闇に落ちていく――
難しい心理描写を見事に演じられる遊佐さんの演技はまさに圧巻です!
大人の恭一を演じられる森川さんは、魅力的な低音ボイスにクールさをプラスした美声で恭一を演じていただきました。
子供の頃の面影を見せない残忍さで琢紀をもてあそぶ恭一。忘れられない過去の思い出。自分の人生に大きく影響を及ぼした
あの出来事が、もう一人の当事者である琢紀にとってはどうだったのか。
良い思い出も悪い思い出も、自分にとって忘れられない出来事を、相手が忘れてしまっていたら――。
愛憎渦巻く複雑な恭一の想いを、時に唸るように、時に声を荒げてぶつける森川さん。
残忍にあざ笑ったり、優しさを垣間見せたり、こらえきれない想いが溢れ出したり。低いトーンの声で恭一を演じる中で、息や間、囁きや
言い回しなど、森川さんの素晴らしい演技が随所に散りばめられていますので、じっくりと堪能していただきたいと思います。
さて、岡山を舞台に消せない傷を背負って生きてきた主人公二人の苦悩や、心の奥底にある心情を描くこの作品。
キャストの皆さんが苦労されたのはやはり方言でした。
岡山弁は字面だけ見ると関西弁に似ているようですが、イントネーションや音の高低が全く違います。「ええよ」「ええな」「ええの?」等、
特に通常の場合は語尾があがる疑問符なども、岡山弁では「え(↓)え(↓)の(↓)」のように語尾を下げて発音するのです。
とりわけ関西出身の遊佐さん、「ええよ」等はおなじみの台詞なのですが、関西弁との音の上げ下げの違いに「岡山弁、難しいなあ…(笑)」と
苦笑されつつ、岡山から収録に足を運んで下さった先生の指導のもと、雰囲気を出すために皆さんイントネーションを熱心に確認されていました。
収録は順調に進み、物語終盤、恭一に振り回されることに疲れた琢紀が爆発し、とある出来事をきっかけに心に抱えていた想いを打ち明けます。
どこか諦めたような琢紀の告白と、初めて琢紀の想いに気付く恭一。その後、十五年前からすれ違って捻じ曲がってしまった二人の関係が
やっと結ばれるシーンは、とても切なく胸をうちます。遊佐さんの震える息や紡ぎだされる台詞、森川さんの素直じゃない愛の告白。
これまでの二人が痛々しいほどにすれ違って傷つけ合っていた分、幸せになってよかった!と思える素敵なシーンになっています。
そして、想いが通じ合った後も、不器用な大人二人のやりとりがとても愛おしいです。
肌を重ねるシーンは、心がすれ違っていた時と比べて、本当に愛に溢れたものになっています。
恭一と琢紀の心が結びついて、雨の中繰り広げられるラストシーン。森川さんと遊佐さんの台詞のやりとりがとても幸せそうで、
物語のラストにふさわしいなんとも素敵なシーンです。
余韻を残すラストシーンの後、プロデューサーの「お疲れさま!」という言葉に、キャストの皆さんからはほっとした笑顔が溢れました。
ここで本編は無事終了となりました。
そして、購入特典の「森川さん・遊佐さんのフリートーク」では、今回の作品についての感想や子供の頃の思い出などを語って下さいました。
内容は、聞いてくださった皆さんのお楽しみなのですが、森川さんと遊佐さんのわきあいあいとした楽しいトークがたくさん詰まっていますので、
ぜひこちらもお楽しみいただきたいと思います。
長時間の収録でお疲れにも関わらず、「お疲れ様でしたー」とにこやかにスタジオを後にされたキャストの皆さん方。本当にお疲れ様でした!
それでは、1月28日発売、「その唇に夜の露」。皆さんぜひお楽しみください!!
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